この辺りでは見慣れない風体の大男が、夕暮れ近い街道に突っ立っている。 時折通りかかる黒竜の塔へと赴く冒険者たちを目で追い、鉛筆を走らせながら。 ・・・どうやら、絵を描いているようだ。  ふ、と不意に後ろに現れた気配に、男の筆が止まる。 「絵、お好きなんですのね?」 振り返るとそこには、妙齢の女性・・・美女、と云うのが妥当な評価だろう。 「・・・これで喰ってるからな。」 「わたしも描いていただけるかしら?」 「500serineだ。 鉛筆絵でよければ。」 「もちろん。」 長髪をうるさそうに掻き上げながら、男は静かに微笑む美女を睨みつけるように見つ め、やがて鉛筆を走らせ始める。  艶やかな黒髪、抜けるような白い肌、豊かな胸を強調するかに大きくあいた胸元、 白魚のような細い指先、紅を差しただけとは思われない紅い唇、そして・・・どこか 暝い光を宿す双眸・・・。  対岸のイシュパーンに夕陽がかかる前に男は絵を描き上げ、女に渡す。 「まぁ・・・ありがとうございます。」 お代を・・・と女が差し出した金貨を一瞥して、男が云う。 「多いな。 1000serineは2枚目からの金額だ。」 「いえ、お収めください。」 つ、と不自然なほどに顔を近づけ、女が囁く。 「よろしければわたしの家に・・・お食事でも・・・」 「遠慮する。」 擦り付けられた女の胸元から昇る香気にも眉ひとつ動かさずぶっきらぼうに云い、 そしてにやりと笑って言葉を続ける。 「淫魔の『お食事』がどんなものか、非常に興味はあるがな。」 「お気付きかいッ! イヤなヤツだね!!」 信じられない跳躍力で一気に間合いを取って、女・・・既に背中から黒い翼を生やし 衣服を脱ぎ捨てたサキュバスが怒りの表情を浮かべながら叫ぶ。 絵描き道具をカバンに詰めた男はさっさと歩き出し、背中越しにひらひら手を振る。 「あんたキレイなんだからもっと若くて活きのいいヤツ狙えよ、『お食事』なら。」 「・・・何様のつもりさッ!」 憤怒の形相でサキュバスが両手を地面にたたきつけると、そこから一気に男の足許 まで地面が砕け、轟音とともに男を土煙が包む。 と、同時にサキュバスはふわり と舞い上がり、土煙の中心へと急降下する。 「あたしをバカにした罰だよ! たっぷり味わいな!!」 「遠慮する、って、云ったろう?」 地撃崩斬の直撃を受けボロボロになっている・・・ハズの男が、薄れかけた土煙から ぬっと手を突きだし、サキュバスの両手首を片手で固めながら云う。 「・・・あ・・・あぁッ!!」 そのまま持ち上げられたサキュバスは、手首から伝わるすさまじい冷気に自分の 運命を悟ったかのように大きく目を見開き・・・ 「明日の朝までそうしてろ。」  まるで琥珀のようにサキュバスを包み込んだ巨大な氷柱に背を向けて、男は 黒竜の塔の方向に歩き出した。 「・・・せっかくキレイに描いてやったのにな・・・。」 そうつぶやきながら。 ***** *余談/2戦目* 「一枚、描いていただけますか?」 「・・・流行ってんのか、それ?(怒)」 「な、なにをおっしゃいます」 「獣くせぇ上にヒゲなんか生やしてる女がいるかぁッ!!」 どっかん!! 「・・・しかし、毎度毎度オチが氷壁ってのもどうかと思うが・・・いっか(笑)」